最高裁判所令和5年(受)第287号

裁判データ

  • 最高裁判所令和5年(受)第287号
  • 令和6年6月21日第二小法廷判決
  • 出典:最高裁判所サイト

判旨

  • 民法その他の法令には,認知の訴えに基づき子との間に法律上の父子関係が形成されることとなる父の法的性別についての規定はない。
  • 生殖補助医療の技術が進歩し,性別の取扱いの変更を認めることとした性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)が施行されるなどしたことで,法的性別が女性である者が自己の精子で生物学的な女性に子を懐胎させ,当該子との間に血縁上の父子関係を有するという事態が生じ得ることとなった。
    そして,本件では,上告人との間に血縁上の父子関係を有しているものの,その法的性別が女性である被上告人に対し,上告人が認知を求めることができるか否かが問題となっている。
  • 民法の実親子に関する法制は,血縁上の親子関係をその基礎に置くものである。
  • 父に対する認知の訴えは,血縁上の父子関係の存在を要件として,判決により法律上の父子関係を形成するものであるところ,生物学的な男性が生物学的な女性に自己の精子で子を懐胎させることによって血縁上の父子関係が生ずるという点は,当該男性の法的性別が男性であるか女性であるかということによって異なるものではない。
  • 実親子関係の存否は子の福祉に深く関わるものであり,父に対する認知の訴えは,子の福祉及び利益等のため,強制的に法律上の父子関係を形成するものであると解される。仮に子が,自己と血縁上の父子関係を有する者に対して認知を求めることについて,その者の法的性別が女性であることを理由に妨げられる場合があるとすると,血縁上の父子関係があるにもかかわらず,養子縁組によらない限り,その者が子の親権者となり得ることはなく,子は,その者から監護,養育,扶養を受けることのできる法的地位を取得したり,その相続人となったりすることができないという事態が生ずるが,このような事態が子の福祉及び利益に反するものであることは明らかである。
    また,特例法3条1項3号は,性別の取扱いの変更の審判をするための要件として「現に未成年の子がいないこと。」と規定しているが,特例法制定時の「現に子がいないこと。」という規定を平成20年法律第70号により改正したものであり,改正後の同号は,主として未成年の子の福祉に対する配慮に基づくものということができる。未成年の子が,自己と血縁上の父子関係を有する者に対して認知を求めることが,その者の法的性別が女性であることを理由に妨げられると解すると,かえって,当該子の福祉に反し,看過し難い結果となることは上記のとおりである。そうすると,同号の存在が上記のように解することの根拠となるということはできず,むしろ,その規定内容からすると,同号は子が成年である場合について,その法律上の父は法的性別が男性である者に限られないことをも明らかにするものということができる。そして,他に,民法その他の法令において,法的性別が女性であることによって認知の訴えに基づく法律上の父子関係の形成が妨げられると解することの根拠となるべき規定は見当たらない。
  • 以上からすると,嫡出でない子は,生物学的な女性に自己の精子で当該子を懐胎させた者に対し,その者の法的性別にかかわらず,認知を求めることができると解するのが相当である。
  • 三浦守裁判官の補足意見及び尾島明裁判官の補足意見がある。
    • 三浦裁判官の補足意見に引用された判例:最高裁令和2年(ク)第993号令和5年10月25日大法廷決定・民集77巻7号1792頁
    • 尾島裁判官の補足意見に引用された判例:最高裁令和2年(ク)第993号令和5年10月25日大法廷決定・民集77巻7号1792頁,最高裁平成16年(受)第1748号平成18年9月4日第二小法廷判決・民集60巻7号2563頁、最高裁平成18年(許)第47号平成19年3月23日第二小法廷決定・民集61巻2号619頁,最高裁平成25年(許)第5号同年12月10日第三小法廷決定・民集67巻9号1847頁

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