無断転貸した居室で転借人が自殺した場合の転貸人の責任

東京地方裁判所平成21年(ワ)第45944号 損害賠償等請求事件

平成22年9月2日判決

判例時報2093号87頁

判旨

  1.  建物の賃借人・賃借人が転貸等により住まわせた第三者が,目的物である建物内で自殺すれば,通常人であれば当該物件の利用につき心理的な嫌悪感・嫌忌感を生じること,そのために,自殺したとの事情が知られれば,当該物件を借りようとする者が一定期間現れず,また,そのような者が現れたとしても,本来の相場よりも相当に低額でなければ賃貸できないことは,経験則上明らかといってよい。
  2.  特に賃借人が,無断転貸等のように,賃貸人の承諾なく第三者を当該物件に住まわせていたような場合には,賃借人に対し,居住者の自殺といった事態の生じないように配慮することを求めたとしても,必ずしも,過重な負担を強いるものではない。
  3.  賃借人は,賃貸借契約上,目的物の引渡しを受けてから返還するまでの間,善良な管理者の注意をもって使用収益すべき義務を負うところ,少なくとも,無断転貸等を伴う建物賃貸借においては,その内容として,目的物を物理的に損傷したりしないようにするのみならず,居住者が当該物件内で自殺したりしないように配慮することも,その内容に含まれるものとみるのが相当である。
  4.  賃借人の,居住者が当該物件内で自殺しないように配慮すべき債務の不履行と相当因果関係がある損害は,a)経年劣化による分を超過する原状回復費用と,b)宅地建物取引業者が,業法による義務として,居住者が自殺したことを告知することによって,当該物件を第三者に賃貸できないことによる賃料相当額・賃貸できても本来であれば設定できたはずの賃料額と実際の賃料額との差額相当額である。
  5.  賃料額を低くせざるを得ないのは,通常人が抱く心理的嫌悪感・嫌忌感が原因であるから,時間の経過とともに自ずと減少し,やがて消滅するものであり,都心に近く・交通の便もよくて利便性が高い,単身者向けのワンルームマンションは,賃貸物件としての流動性が比較的高いとみられるから,心理的嫌悪感・嫌忌感の減少は,他の物件と比べると速いと考えるのが合理的である。

検討

1)建物賃借人に,善管注意義務の一環として,居住者が当該物件内で自殺したりしないように配慮する義務を認めたこと,及び,2)その債務不履行と相当因果関係がある損害の範囲を判断したこと,の2点において,参考となる。

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