滞納処分による差押後に設定された賃借権については,明渡猶予制度の適用があるという説(明渡猶予制度適用肯定説)と,適用がないという説(明渡猶予制度適用否定説)がある。
最高裁平成12年3月16日決定は, 滞納処分による差押後,強制競売等の開始決定による差押えがされるまでの間に設定された賃借権に基づく不動産の占有者に対し,民事執行法83条による引渡命令を発することができるとした。
この考え方によれば,明渡猶予制度適用否定説になるようである。
しかし,明渡猶予制度は,抵当権に後れる賃借権は競売により消滅し,ただ,一定の保護要件を満たす占有者に6か月の明渡猶予を認めるものであって, 平成16年3月31日まであった短期賃貸借制度(民法 旧 395条)のように賃借権の存続を認めるものではないから,上記決定は妥当しないといえる。
民法395条1項によれば,明渡猶予の要件は,競売手続の開始前から使用又は収益する者であることだけであるから,滞納処分による差押後であっても,競売手続開始前に賃貸借に基づき占有を開始した占有者には,明渡猶予制度が適用されると解する (明渡猶予制度適用肯定説 )のが相当ではなかろうか。
なお,東京地裁の民事執行センターは,明渡猶予制度適用肯定説により事件を処理している。
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