裁判データ
- 大阪高等裁判所平成20年(ネ)第1455号
- 平成23年2月25日判決
- 労働判例1029号36頁
判旨
原告は,勤務中,先天的な脳動静脈奇形(AVM)部分からの出血(本件発症)により常時半昏睡という重篤な後遺障害を負った。
- 過重な業務の負荷によって疲労が蓄積して睡眠不足に陥っていたことは,日中時の血圧上昇をもたらすとともに,睡眠時の血圧低下を妨げる要因となり得るものであったのに対し,AVMは一般論としては出血のリスクを高める因子を抱えていたといえる反面,出血のリスクを引き下げる因子である無症候性のものであったから,これらの諸事情を考えると,原告のAVMがその自然の経過により一過性の血圧上昇等があれば直ちに出血に至る程度に憎悪していたとみるのは相当ではない。
- 他にAVMの憎悪を引き起こす確固たる原因がないので,業務による過重な身体的,精神的負荷及びこれに基づく疲労や睡眠不足が原告の基礎疾患であるAVMを,その自然の経過を超えて急激に憎悪させ,本件発症に至ったものと認めるのが相当であるから,原告が行っていた業務と本件発症との間に相当因果関係があると認めることができる。
- 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが相まって損害を発生させた場合は,当該疾患の態様,程度に照らして,加害者に損害の全額を賠償させるのが公平を欠くときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるにあたって,過失相殺の規定を類推適用して,被害者の疾患を斟酌することができる。
- 原告が行っていた業務と本件発症との間には相当因果関係がある反面,AVMの態様・特徴,AVM破裂の状況,それが自然の経過の中で出血する危険性の程度等から,AVMも本件発症の重要な原因になっていると評価すべきであるから,原告に生じた損害の全部を使用者に負わせるのは公平を欠くので,過失相殺の規定を類推適用し,損害額の40%を減額するのが相当である。
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