最高裁判所令和2年(受)第645号

裁判データ

最高裁判所令和2年(受)第645号 遺言有効確認請求事件
令和3年4月16日第二小法廷判決
出典:裁判集民事265号,判例時報2499号8頁

判旨

  • 事案の概要は,以下のとおりである。
    • X及びYの母であるAは,全財産をXに相続させる旨の遺言(「本件遺言」)を記載した遺言書を作成して死亡した。
    • Yは,Xに対し,Aの遺産を法定相続分の割合により相続したなどと主張して,Aが所有していた不動産(「本件不動産」)につき,AからXに対する売買等を原因とする所有権移転登記の抹消登記手続等を求める訴訟(「前訴」)を提起した。
    • Xは,本件不動産はAとの売買契約により取得したものであると主張するとともに,Aが財産全部をXに相続させる旨の有効な遺言をしたと主張し,本件遺言書を証拠として提出し,さらに,XがAの医療費を立て替えたので,Yはこれに基づく立替金債務を法定相続分の割合により相続したとして,その支払を求める反訴を提起した。
    • 前訴第1審は,AとXとの間の本件不動産に係る売買契約は認められず,医療費の立替払の事実も認められないと判断し,本件遺言の有効性については判断しなかった。
    • 前訴控訴審において,Xは,Aが本件遺言をしたことを抗弁として主張したが,控訴審はこれを時機に後れ他攻撃防御方法であるとして却下し,控訴を棄却し,この判決が確定した。
    • その後,Xは,本件遺言が有効であるとして,Yを被告として,その確認を求める本件訴訟を提起した。
  • 前訴では,本件遺言の有効性は判断されなかった。
  • 本件訴えで確認の対象とされている本件遺言の有効性はAの遺産をめぐる法律関係全体に関わるものであるのに対し,前訴ではAの遺産の一部が問題とされたにすぎないから,本件訴えは前訴とは訴訟によって実現される利益を異にする。
  • 前訴では,抗弁として取り上げられることはなかったものの,Xは本件遺言が有効であると主張し,反訴を提起したのは,本件遺言が無効であることを前提とする本訴に対応して提起したにすぎないと述べていた。
  • これらの事情に照らすと,Yにおいて,自らがAの遺産について相続分を有することが前訴で決着したと信頼し,又はXにより今後本件遺言が有効であると主張されることはないであろうと信頼したとしても,これらの信頼は合理的なものであるとはいえない。
  • 前訴でXが提起した,立替金債務の支払を求める反訴請求は棄却され,Xは前訴で利益を得ていないのであるから,本件訴えにおいて本件遺言が有効であることの確認がされたとしても,Xが前訴における反訴の結果と矛盾する利益を得ることになるとはいえない。
  • 以上によれば,本件訴えの提起が信義則に反するとはいえない。

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