裁判データ
- 最高裁判所平成30年(受)第1626号 執行文付与に対する異議事件
- 令和元年8月9日第二小法廷判決
- 出典:民集73巻3号293頁
事案
- 平成24年6月30日,銀行の債務者であったAが死亡し,同年10月19日,その相続人であったBは,自己がAの相続人であることを知らず,Aの相続について相続放棄の申述をすることなく死亡した。
- 銀行から債権譲渡を受けたXは,Bの相続人であるYに対する承継執行文の付与を受けた。
- 平成27年11月11日に承継執行文の謄本等の送達を受けたYは,平成28年2月5日,Aからの相続について相続放棄の申述をし,同月12日,上記申述は受理された。
判旨
- 民法916条の趣旨は,甲を相続した乙が,甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには,乙から甲の相続人としての地位を取得した再転相続人丙において,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて,丙の認識に基づき,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである。
- 丙は,自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって,当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではないし,丙は,乙からの相続により,甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの,丙自身において,乙が甲の相続人であったことを知らなければ,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。丙が乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず,丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって,甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。
- 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。
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