- 最高裁判所昭和63年(オ)第1094号 損害賠償請求事件
- 平成4年6月25日第一小法廷判決
- 出典:民集46巻4号400頁
判旨
- 被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,その疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たって,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患を斟酌することができるものと解するのが相当である。
- なぜなら,このような場合においてもなお,損害の全部を加害者に賠償させるのは,損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである。
検討
既往症がある場合には,
1 原因不明型(被害者に素因があるために,事故と被害との間の因果関係の存否が確定できない場合)
2 原因混在型(事故と被害との間の因果関係は認められるが,被害の一部は被害者の素因が原因であると認められる場合)
3 原因競合型(事故と被害者の素因とが競合して被害が発生したと認められる場合)
があるといわれている。
本件は,原因競合型の事案であって,他の類型に本判決の判旨を適用するのは妥当ではない。
体質的・身体的素因については,減額事由とするべきではないとの学説も有力であるといわれ,東京地裁交通部も,体質的素因は原則として減額事由として斟酌しないこととしていた(例えば,東京地裁平成元年9月7日判決・判例時報1342号83頁)が,本判決は,この考え方を採らないことを明確にした。
既往症・素因を斟酌する場合の方法には,
1 確率的心証説
2 割合的因果関係説
3 寄与度減額説
4 過失相殺類推説
などがあるといわれているが,本判決は,過失相殺類推説を採った。
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