最高裁平成7年(オ)第1562号(建物所有権確認等請求事件)平成9年7月17日判決・集民183号1031頁,裁判所時報1200号280頁,判タ950号113頁,判時1614号72頁の,藤井正雄裁判官による補足意見。
原告が,建物を建てたのは自分であるとして,その建物の所有権の確認を求めているのに対して,被告が,建物を建てたのは原告の父親であると主張し,被告の主張に基づいて,原告は相続により9分の1の共有持分を取得したと認定する場合,共有持分権は,共有物の利用管理等について単一の所有権とは異なるシュシュの制約があるから,所有権の単純な分量的一部とはいえないので,裁判所は,原告に,9分の1の共有持分権の限度の請求としてもこれを維持する意思があるか否かについて釈明を求め,予備的に請求の趣旨を変更させる措置をとるのが普通で,これをせずに所有権は認められないとして請求を棄却すると,既判力により相続の事実を再訴で主張できなくなってしまう(最高裁平成5年(オ)第921号同9年3月14日判決・集民182号登載予定)が,そのような事態はなるべく起こらないことが望ましい。
ただ,裁判所が常に釈明義務を負うということは意味せず,原告が,建物の所有権が自己の固有の財産であるとする主張に固執し,遺産の共有持分の限度での請求をする気配を見せていないような場合には,裁判所が遺産共有を前提として共有持分権の主張をするか否かについて釈明を求めてまで,請求の一部を認めてやる義務があると言うべきかは,一考を要する。
相続開始後,年月を経て,他の相続人間では格別の紛争もなく,一定の事実状態が形成されてきているような場合だと,裁判所の介入が,かえって紛争の拡大を助長する結果となることもあり,事案に応じた慎重な配慮が求められる。
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