交通事故で被害者が保険を用いて車両を修理した場合

被害者が,自己が契約する自動車保険により事故車両の修理費用を支出した場合,そのことによって保険の等級が下がって保険料が増額される。

この増額分は,事故の損害になるか?

 

1 損害肯定説

横浜地方裁判所昭和45年(ワ)第490号,昭和47年(ワ)第509号 損害賠償併合事件
昭和48年7月16日判決
事故による車両の損傷を保険金により修理したことで保険料が増額された場合,その
差額は交通事故と相当因果関係を有する損害になると判断した。

 

2 損害否定説
東京地方裁判所平成9年(ワ)第9352号 損害賠償請求事件
平成10年12月9日判決
被害者が車両保険を使用したことで保険料は増額されるようであるが,車両保険は被
害者がリスク回避のために契約しているものであって,これを使用するか否かは被害
者の自由に任されることに,保険を使用したことで保険料が増額されるのは保険契約
の内容によることを併せ考えると,保険料の増額分は事故と相当因果関係のある損害
とはいえない。

3 個人的な検討
自己が契約する自動車保険を使用するか否かは被害者の自由であるから,保険料の増額分が当然に損害になるということはできないであろう。

また,車両保険を用いれば,その保険会社は,支払った保険金相当額を加害者に対して求償請求するので,加害者は,被害者に対して直接,あるいは被害者の保険会社を通じて,修理費を支払うことになるから,保険料の増額分が損害になるとすると,被害者の選択によって加害者の負担額が増えることになり,妥当であるとはいえない。

そうすると,保険料の増額分は原則として損害とはならず,ただ,至急に修理する必要がある等の事情があり,かつ,(それは特別損害といえるから,)加害者においてそのことを予見し得た場合に限り,損害となるというべきであろう。

 

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